Summary
グループ指導を,教室で行なう場合と教師が離れて遠隔で行なう場合の,生起する学習環境の比較実験を行った。実験では大学生を,5名ごとのチームに編成し,1名の教師役の学生が4名の生徒役学生に対してグループで協調して取り組む課題を与え,それぞれの環境で各4回のセッションを行った。そして,記録VTRより相互作用分析と介入分析を実施し,コミュニケーションの違いを分析した。その結果,
・対面でのグループ協調学習では教師からの働きかけが多く見られた
・遠隔でのグループ協調学習では,学習者が教師との個人的コミュニケーションを助長することなく,学習者間の議論に集中した
という知見を得た。
キーワード:グループ学習,遠隔指導,学習環境
Keywords: Group Learning,
Distance Teaching, Learning Environment
1.
はじめに
学習者がグループとなって相互に協調(cooperative)する学習形態は,その学習環境における多くの利点が報告されている(たとえばSchultz,
B.G., 1996)。一方,近年の情報通信メディアの発達・利用による学習環境の拡張により,教師と離れて学習活動を行なうことも可能になった。それゆえ,改めて通信メディアが介在する教育で学習者グループと教師間(interpersonal)に作られるコミュニケーションの対面授業との違いを確認することが必要である。そこで本研究では教室内グループ協調学習と遠隔グループ協調学習との比較に取り組んだ。
2.
メディアと対面学習
遠隔教育の様に,情報を情報通信メディアで送る教育と,対面指導との教育効果に違いについて論説した報告にクラークの「メディアからの学習に関する研究を再考する」がある(これについては以下が詳しい:佐賀,
1999)。クラークはここで,「メディアは教授活動を運ぶ単なる乗り物であって,生徒の学習達成には影響しない」としている。実際,遠隔授業と対面授業という設定で多くの学習効果比較実験研究が行われているが,「適切なメディアの活用が行われた場合,その学習効果には有意な差が無い」とこの論説を支持する結果が多い(e.g.
Martin et al., 1993)。
しかし,そこにおける学習活動までも同じであると言えるのであろうか。メディア介在の指導では学習活動に変化があるのではないか(e.g.
Tripp, S.D., 1998)。
3.
学習者−教師間の相互作用分析
授業でのコミュニケーションの様子を分析する伝統的手法として,授業でのメッセージのやり取りをカテゴリーに置き換えて,分析する相互作用分析がある。現在では,観察可能な表面行動のやり取りだけから学習達成を解明する研究が少なくなったために,あまり使われないが,この手法の開発時の狙いは教師の指導が学習者(集団)の行動に及ぼす影響の解明に取り組むことであった。したがってメディアを介した指導や学習行動を,コード化して分析すればコミュニケーションの大要を理解することができる。大きな差異があれば強調できる。そこで,本研究においては小金井らの開発したSIAS
(Simplified Interaction Analysis System)のカテゴリー(南部ほか,
1983)を応用して相互作用分析を実施した。
4.
介入分析
グループ学習が学習者中心学習か教師中心学習かを判定する基準として,ヘロン(Heron,
J., 1989)は5つのカテゴリーを提案し,それらで教師が学習に介入する行動を判定することにより,生起している学習を知る「介入分析(Intervention
Analysis)」を開発した(表1)。
ここで,カテゴリーE,SEは学習を引き出すための教師の介入,カテゴリーC,P,Iは情報を提供するための教師の介入である。本研究ではヘロンのこの5つの分析カテゴリーを用いて2種のグループ協調学習での学習場面の特性分析を実施した。
5.
調査実験
5-1. 設定
2種の教室設定をした。
対面指導グループ協調学習(以下対面):教師が教室のグループに対して指導を行った(図1)。
遠隔指導グループ協調学習(以下遠隔):教師が遠隔地からグループに対して指導を行った(図2)。
遠隔は,モニター付きVTRとビデオカメラのセットを使い,隣接する2教室をケーブル接続して,模擬的にメディア経由(双方向映像・音声)の学習/教授環境を作ったものである。
5-2. 調査対象・方法
調査グループ:千葉大学学生
グループ構成:教師役学生1名(以下教師),学習者役学生4名(以下学習者),計5名のグループを4組作り,各組毎にそれぞれ「対面」と「遠隔」を実施した。
学習課題:学習者に絵(例:図3)を渡し,そこに内在する環境問題を学習者グループで議論し,判明した問題点とその理由を指摘する。
学習時間:10〜20分/グループ(教師役が打ち切りを決めるまで続けた)
分析:ビデオ記録から,観察できた行動を2種の分析システムでそれぞれカテゴリー化し,時間データと共にデータ化した。
実験後学生に質問紙によるアンケート調査を実施した。アンケートは,
- ・絵の内容が適切であったか
- ・絵の表現が十分わかりやすかったか
- ・教師の説明や助言が十分であったか
- ・仲間と相談が必要であったか
について5段階の主観的尺度により評価をさせたものである。両グループ学習の結果に明確な差が見られなかったので本稿では省略した。
6.
結果
6-1. 相互作用分析の結果(表2,表3)
<教師行動>
- ・対面では,学習者の戸惑いに対して,情報提起(TI)や解明(TR),再質問(TC)で対応し,遠隔では,初出質問(TQ)を投げかけて対応していた。
- ・相互作用の時間の費やし方は,対面では教師の発言:学習者の発言=3:1であるのに対して,遠隔では教師の発言:学習者の発言=1:4と逆転しており学習者の発言が盛んであった。
<学習行動>
- ・対面では,行動の多くは短い質問(SQ)であったが,遠隔では質問より課題に対する意見(SR)が多く見られた。
- ・遠隔のほうが学習者の自発的発言(SV)が多く,かつ有意に長かった。
- ・対面では,教師の情報提起に続いた学習者の質問が多かったが,遠隔では,教師の情報提起後学習者間で話し合うことにより解決に結びつけていた。
- ・対面に比べて,遠隔では,学習者の解明(SR)が有意に長く学習者相互の議論を通して解答に結び付けていた。
<その他>
・遠隔では対面に比べて明らかに情報提起(TI)に時間をかけていた。しかし1回当たりの提起時間は,教師(遠隔/対面=1.6)も学習者(遠隔/対面=1.6)も同じ割合の時間の広がりを示していた。
6-2. 介入分析の結果(表4,表5)
遠隔は対面に比べて教師の働きかけのバリエーションが限られていた。どの教師も感情を表情に出さないで,不特定多数に話し掛ける口調であった。これに対し対面では積極的な教師の介入行動が見られ,その総時間は遠隔に比べてはるかに長かった(10分当たりの平均介入時間:対面=122秒,遠隔=44秒)。ヘロンの介入分析結果の確認行動数から算出した(学習者中心/教師中心)率は,対面=.250,遠隔=.385で,遠隔のほうが学習者中心の授業であった。
7.
考察
介入分析では「対面でのグループ学習の方が教師主導型である」という結果が見られた。これは相互作用分析の結果の学習者行動数でも見られた傾向である。さらに,対面では学習者の行動のほとんどが質問で,それに対して積極的な教師の対応が行われており,教師依存があった。
また遠隔では,学習者の質問数(SQ)より教師の対応数(TI,TM)が少なく,教師−学習者間の交流が限られていたことが相互作用分析よりわかる。逆に学習者間の交流は盛んで活発な話し合いが行われていた。
このように同じ構成要員でおこなったグループ協調学習指導であるのに明らかに,交流が同等ではなかった。遠隔ではモニター上に間近に見える教師の顔を身近に感じていなかった。この結果をより具現化して解釈する方法として,対人距離の知見が応用できる。ホール(Hall,
E.T., 1966)は,対人距離の持つ相互作用での意味を分析・分類している。
親密距離(0−45cm):ごく親密な間柄において,相手に触れたり顔を寄せ合って小声で話したりするような距離。
個体距離(45−120cm):夫婦や親友などが普通の会話をする際の距離。
社会距離(120−360cm):会議・会談などの公的な場面で会話する際の距離。
公衆距離(360cm−):講演や講義などの公的な場面で,話し手と聴衆との間にとられる距離。
これは,わかりやすい対人関係解釈のめやすを提供する。
対面では,結果的に教師が学習者に近づき「個体距離」に入ってしまっていた。これは教師の運営の失敗ではなく学習環境の特性である。というのも教師が教室でのグループ指導で,均等に机間指導をすることはその運営の指針となっている活動である
(Jaques, D.,1992)。結果,グループの要員と個別なやりとりが生じていた。
それに対して,遠隔の場合には,画面上では「個体距離」に見える教師も,学習者−教師間の交流の親密さが確立できず,「公衆距離」の状態にあった。すなわち,サイト内コミュニケーションの影響の方が強かった。実際,学習者の教師に対する要望も要請的になされることが多かったし,教師側も沈思熟考した応答をしていた。教師の他人行儀な姿勢が,学習者に心理的距離も感じさせたが,同時に依存や気遣いが減り,グループ協調に集中できたと考えられる。
謝辞
本研究でメディア教育開発センター山地弘起先生より,コミュニケーション関連の知見をご紹介いただきましたことをお礼申し上げます。
参考引用文献
佐賀啓男(1999):
教育メディアの効果に関する基礎研究文献解題,メディア教育開発センター研究報告,05-1998-11,
pp.285-312
南部昌敏 ほか (1983):
簡易授業分析用カテゴリーシステムの開発とそれによる教育実習生の訓練の試み,日本教科教育学会誌,Vo.8,
No.2, pp.1-7
Hall, E.T.
(1966): The Hidden Dimension, New York: Doubleday. 日高敏隆,佐藤信幸訳(1970),かくれた次元,
東京:みすず書房,
pp.160-181
Heron, J. (1989):
“The Facilitators’
Handbook,” London:
Kogan Page, pp.3-23
Jaques, D.
(1992): “Learning in
Groups”: Second Edit.,
London: Kogan Page, pp.119-123
Martin, E.D. et al.
(1993): Student Achievement and Attitude in a
Satellite-Delivered High School Science Course, The Amer. Jour.
of Dist. Edu., Vol.7, No.1, pp.54-61
Schultz, B.G.(1996):
Communicating in the Small Group. Theory and Practice. Second
Edit., New York: Harper Collins College Publishers, pp.1-4
Tripp, S.D.(1998):
Recent Trends in Educational Media in North America, Paper
presented at Media in Higher Education Seminar, Chiba: National
Institute of Multimedia Education, 29th Jan.,
pp.31-47
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