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大学教育とインターネット -- 文教政策にみるその展望

田中規久雄

Source:
田中規久雄, 2001, "大学教育とインターネット -- 文教政策にみるその展望", Osaka University,  http://www.rd.ecip.osaka-u.ac.jp/kouhou99/node5.html

はじめに

2001 年度までにはすべての初等・中等教育機関にインターネットの専用回線が引かれ、 2003 年度からは高等学校では教科として「情報」が独立し、実習中心で運営されるそうである[*]。そうなれば、大学における情報教育も様変わりしてゆくだろう。

一方で、昭和 62 年 10 月 29 日、大学審議会が「大学等における教育研究の高度化、個性化及び活性化等のための具体的方策について」、文部大臣から諮問を受けて以来の大学改革が、この数年急速に展開している。また少子化により、「文部省が一昨年出しました将来予測によりますと、 2009 年には志願者の全員が大学・短期大学に入れるということになっています。」[*]といわれている中、すでに「研究者養成中心の大学、高度専門職業人養成中心の大学、生涯学習を中心とした大学」[*]という大学の機能分化を提案する声もある。

本稿では、そうした二つの流れ、すなわち「インターネット」が象徴する高度情報化社会と、そうした社会環境の変化に伴ない改革が求められている「大学教育」の交錯点を俯瞰することによって、今後の大学教育においてインターネットが果たしうる役割を探ってみたい。

 

教育方法としてのインターネット

まず考えられているのは、大学における教育の手段・方法としてのインターネット利用である。

これには、大きくいって三つの利用形態がある。

 

教室としてのインターネット

第一は、「遠隔授業」といわれるものである。これは従来の一方的な「放送授業」とは異なり、教授者と受講者のインタラクティブ (同時双方向的) な交わりが可能である点をその今日的特徴とする。つまりは、通信空間がバーチャル教室となるわけである。

平成 11 年 3 月の「大学設置基準」の改定で、情報通信技術などを活用した遠隔教育による 60 単位までが卒業要件として認められるようになり[*]、たとえば、キャンパスの離れた一部の大学ではすでに SCS (スペース・コラボレーション・システム) を利用した遠隔授業が導入されており、また大学院への遠隔教育単位の導入も可能となった。

しかし、これを現状のインターネットの転送幅で完全インタラクティブに行おうとするのは難しいものと思われる。ギガビット・ネットワーク等の超インターネットの普及が望まれるが、今暫くは衛星通信を利用した衛星通信システムやテレビ会議システムの独壇場であろう[*]

大学審議会が、「なお、今後、新たに大学設置基準第 25 条 (授業の方法) に位置付けられることとなる『遠隔授業』についても『面接授業』の一形態として、各大学院が適切と認める場合には積極的にその活用を図ることができるようにすることが考えられる。」[*]と、通学して直接教授者から講義を受けることと「遠隔授業」とを同様に認めていることから、安価な現状のインターネットでその実現が難しいことは惜しまれる[*]

それでもインターネットは大学教育の国際化[*]の進展に寄与するものとして期待されている。

たとえば、大学審議会の審議の中では、「これまで本部会では、グローバルな視点でマルチメディアの役割の重要性について抽象的に議論してきた部分と、テレビ会議システム型の『遠隔授業』を大学設置基準上どのように位置付けるかという具体的な議論と、距離のあるところを議論してきたように思う。また、他の部会では、 21 世紀の大学像を考える際には、国際化という視点で、マルチメディアの重要性についての意見が多いようである。これについては、日本の学生がアメリカの大学の授業をインターネットを通じて受けるということが現実には起こっている。しかし、国際化ということであれば、反対に、日本の大学がメディアを通じて、国際的に授業等を提供することも検討しなければならないと思う。また、世界的にはインターネットを活用したマルチメディア教育が進展しており、インターネットを教育にどのように位置付けていくかということも検討しなければならないのではないか。」[*]と提言されているし、留学生政策懇談会は、「すでに海外では、大学の日本語コースや民間の日本語教育施設などが数多く設置されている。我が国としても、これらとの協力を進めるとともに、インターネットや衛星通信等を通じて外国人に母国で日本語の学習機会を提供することもこれからの課題である。」、「インターネット等の情報通信革命は、大学教育の国際化に大きなインパクトを与えており、たとえば、母国に居住したまま、外国の大学の教育を受けるようなことも予想される。」[*]と述べている。今後の大学教育の国際競争の中でも高度通信技術が成功の鍵を握っているというわけである。

 

教具としてのインターネット

第二は、「遠隔授業」とまでいかないまでも、教授者が自らの授業における学生とのコミュニケーション手段や補助手段として、電子メール、メーリングリスト、ニューズグループ、 WWW といったインターネットの要素技術を用いる利用形態である。

「ある大学では、毎回学生はアメリカの大学教員の授業が録画されたビデオを見て、インターネットで指導を受けている。そして講義の最終回にその教員が実際にやってきて集中質疑を行うという授業も行われている。」[*]といわれているように、教授者の直接授業の補助手段でありうるのみならず、厳格なリアルタイム性さえ求めなければ、放送授業などの補完手段たりうる。

大学審議会の審議の中でもこの点は、「マルチメディアを活用した授業を行う際には、シンクロナス (同時性) とアシンクロナス (経時性)、シンメトリー (双方向) とアシンメトリー (一方向) という 4 つの指標がある。答申で提言した「遠隔授業」は、シンクロナスでシンメトリーの授業であり、これについては単位を認めようということであった。しかし、21 世紀の大学像を考える際には、アシンクロナスで、シンメトリーの授業の単位認定をいつの時点で行うかが、今後の重要な問題である。世界的にみれば、これを単位認定する方向であり、オンラインユニバーシティやヴァーチャルユニバーシティーが動き始めている。」[*]と指摘されており、もちろん通信添削の間隔やレスポンスを大幅に改善した程度でなければならないではあろうが、とりあえず、もはや「授業」の要件から厳格な「同時性」は外れようとしている。

教職課程の授業においても、「授業方法についても、大学の教員のみならず現職教員を含め様々な人材の活用や、学校における実際の授業等の観察、それに代わるビデオ又はインターネット、衛星通信等マルチメディアの積極的活用を図ることなども工夫すべきである。」とされているのは同旨である[*]

生涯学習の観点からも、生涯学習審議会は、「また、高齢者や子育て中の女性等に、在宅のまま公開講座の受講機会を提供する手段として、地域の生活に密着した情報の提供を行っている CATV の活用も検討することが重要である。さらに、今後は、一斉送信型のシステムに加え、インターネットを活用したインタラクティブ型の送信も積極的に行い、たとえば、多くの大学の参加により共同で公開講座を実施しそれをインターネットで流すなど、全国どこでも高度な教育をいつでも受けることができるような取組も期待したい。 (略) また、既に、米国などでは、衛星通信ネットワークやインターネット (ホームページ、チャット、掲示板、メールの活用) 等多様な情報通信技術を用いて、授業を行ったり、質問を受けたりして、通学しなくても卒業できるような大学院レベルの教育システム (バーチャル・ユニバーシティー) が行われており、このような状況を踏まえた検討が望まれる。さらに、今後マルチメディアを高度に利用した大学院教育の実施も期待されるところであり、そのための取組を進めることが望まれる。」[*]と、大学院もまたネットワーク技術で生涯教育機関として機能することを期待している。

 

教材としてのインターネット

第三には、従来の教科書等と同じく、教材としてインターネットのコンテンツを利用する利用形態がある。

この点については、大学教育の大黒柱のひとつである大学図書館を含む図書館等における資料の電子化やネットワーク運営[*]が重要な施策となるのではあるが、本稿では割愛させていただいたことをご了承頂きたい。

さて大学審議会は、通信教育について、「パソコン利用等により部分的に双方向性を備えた新たな放送授業の可能性が開ける、従来の印刷教材に加えて CD-ROM やインターネットなどを利用したマルチメディア教材の活用により教材の幅が広がる等のメリットが考えられる。このように、マルチメディアの活用は、従来の方式による授業ではあげることのできなかった教育効果を期待できるものであり、高等教育の一層の充実を図る観点からも、その活用について積極的な位置付けを考慮することが適当である。」とした上で、「ア『印刷教材による授業』 近年、情報通信技術の進展にともない、従来の印刷教材の文字や写真を記憶させた CD-ROM 等の電子出版による教材が身近なものとなってきている。このような電子出版による教材は、従来の印刷教材と同等又はそれ以上の学習効果が期待できるものであり、今後、このような形態による教材の提供が進行していくものと考えられる。現行の大学通信教育設置基準における『印刷教材による授業』の規定においては、『印刷教材』の中にこのような電子出版を含むか否かが文言上必ずしも明確でないので、電子出版も含むよう規定を整備することが適当である。 イ『放送授業』 『放送授業』については、現行の大学通信教育設置基準の制定当時は、テレビ・ラジオ放送を利用して行われる放送大学の授業のみを想定していたと考えられるが、現在では、放送大学以外にも、衛星通信と ISDN 通信回線を結んだ独自の教育メディアを活用して、パソコン映像等により、教員の授業を各地の教室に配信するとともに、電話等を通じて学生からの質問等にも対応できるよう配慮した形態での放送授業を実施する通信制の大学が出てきている。また、将来的には、パソコンやインターネットの普及により、それらを利用して教員の授業を配信する新しい授業形態も出てくるものと思われる。このような授業形態についても、『放送授業』の一つの形態として取り扱うことが適当であると考えられる。なお、教員の授業を記憶させた CD-ROM や DVD 等のパッケージ型メディアの視聴により学習させる場合にも、これを『放送授業』として取り扱うことが適当である。」[*]と述べている。

確かに、負荷の大きいリアルタイム動画以外の教材・資料ならインターネットを利用して、公開されている情報を活用したり、事前に担当者が教育用サーバに授業用のコンテンツを準備しておけば、効果的であろう。たとえば、大講義等であっても、事前に読むべき教材 (たとえば判決など) をインターネットで教育用サーバから入手できるようにしておいたり、ニューズグループで質問や討論を行って大講義の欠点を補完するといったイントラネット風の利用法が考えられる。

 

大学情報提供の場としてのインターネット

次に、直接の教育活動ではないが、「大学情報の提供」ということも施策の重点のひとつとなってる。

たとえば平成 10 年 10 月 26 日の大学審議会答申「 21 世紀の大学像と今後の改革方策について-競争的環境の中で個性が輝く大学-」のタイトルを見てもわかるように、今日の大学教育は、少なくとも量的にはかつてのような需要過多の状況ではなくなり、一種の教育市場の中にある。

そこで必要となるのが、より一層の「大学情報の提供」ということだとされるのである。ここでインターネットは、テレビや新聞といった広報媒体に比べ大いに安価かつ柔軟であることが重要となろう。

文部省は、「 (3) 大学と社会とのコミュニケーション 大学の組織運営を活性化する上で、学外との積極的なコミュニケーションを通じて、学外からの評価や反応を受け止め、それぞれの大学に求められている社会的要請を具体的に改革にフィードバックしていくことが重要である。各大学では、パンフレットの発行、自己点検・評価結果についての報告書の公表等を通じて、大学情報を発信しているほか、大学入試センターの『ハートシステム』においても、各大学の入試情報に加え、大学の特色やカリキュラム、大学改革の状況等について、高等学校や図書館等に設置された端末を通じ、情報を提供している。また、インターネット上にホームページを開設し、広く大学情報を提供する大学が急速に増加してきている。」[*]と、インターネット上の情報公開を評価している。

確かに学校というものは行ってみないとわからない側面があるが、それにしても従来は、学術交流用にはともかく、一般市民、受験生向きの広報は簡単なものであった。学部教育が高校新卒者を中心に受け入れてきた時代はそれで受け取る側の評価能力に合致していたであろう。しかし、大学が生涯教育機関として機能していく場合[*]、社会人にはすでに大学を卒業している者も多く、彼らは中身を一定程度評価できるのであって、今日のように WWW で教官の論文をはじめとする詳細な研究・教育内容を知ることができるのは価値のあることであろうまた、大学教育の国際競争力強化のために、「すでに、インターネットを通じて自らの大学等に関する様々な情報を提供しているところもあるが、各大学の概要等だけでなく、専門科目や教員等に関する情報の提供を含め、多くの大学等にこのような取組みが拡がることが望ましい。」[*]との指摘もある。

しかし、「インターネットを通じた情報公開を積極的に行おうとしても、国立大学では、職員がコンピューターを十分に使えないことがネックとなっている。」[*]ともいわれている。

たとえば、中央集権型の公式ページを外注で作成する方法はどうしても小回りが効かず、迅速な更新に対応できず情報が陳腐化していて、かえって見るものを惑わす危険性すら感じさせることがある。実際上も、具体的な研究・教育内容は各研究室や教官の WWW にアクセスしなければわからないのであるから、将来的には研究室や各部局各掛ぐらいの細分化されたレベルで最新の所管事項を情報公開し、管理部局がそれを統合化して見せていくといった運営で、活きた情報公開ができないだろうか。そのためには、ネットワーク管理などの高度なスキルは無理としても、今後の情報提供のための最低限のコンピュータリテラシーをもったスタッフを分散配置する必要があるのではないだろうか。

 

教育制度観へのインターネットの象徴的機能

インターネットの急速な普及が、遠隔教育等の連想を強く刺激したことにより従来の大学教育制度観に著しい変化が現れている。各種の審議会議事録や答申を見ると、そこでは「インターネット」は「マルチメディア」を象徴するものとしてとらえられ[*]、「マルチメディアというものが、ごく短い間に高等教育の構造を変える力として動いていくことは間違いない。」[*]として、そこから新しい教育制度観が生まれているようである。

たとえば、大学審議会は「将来的には、マルチメディアの一層の進展により、通学制と通信制との境界を明確に分け難くなり、情報通信ネットワーク上でのみ授業を行う、いわゆる『ヴァーチャル・ユニバーシティー』といった全く新しい形態が出てくることも考えられる。」[*]とか、「また、更なる技術の進展により、現在通学制の大学院で行われている教員の授業や研究指導を学生が自宅で受けることができるようになる可能性もある。このように、将来的には、あらゆる学生が、地理的、時間的制約を超えて、通学制の大学院で行われる教育研究に参加でき、分野によっては、通学制と通信制の境界がなくなるような状況が現出することも考えられる。」[*]としたり、高等教育を、インターネット等による「教育、社会人教育」と、医者や法律家等のいわゆる専門家養成のための教育に分離して考える発言[*]が出て来たりしている。

冒頭に述べた大学の機能別案もインターネットに象徴されるマルチメディアを利用することによる可能性の拡大という期待に支えられている[*]

以上のように、インターネットに代表される情報技術による教育方法観の変革は教育制度観も確実に変革しようとしている。

 

まとめ

以上のように見てくると、「大学教育とインターネット」を取り巻く近年の文教政策の骨格が見えてくる。すなわち、発展していく高度情報通信社会を支え (教育の社会的機能)、同時に国民がそれに対応していける教育 (教育の個人的機能) を整備、拡充するということである。

図式化すれば以下のようなものとなろう[*]

 


[教育理念]

少子・高齢化社会へと変化し、大学の大衆化が進行すると同時に様々な問題をかかえるわが国が、変化の激しい高度情報化社会、国際化社会に対応するための「生涯教育」としての大学教育[*]

 


[教育方法]

高度情報通信技術の発展による「遠隔教育」、「マルチメディア (含む、インターネット) 活用」の可能性。

 


[教育制度]

上記の教育方法を用いることにより通学制・通信制の別を大きく緩和し、社会人・外国人に開かれ、生涯教育機関化・国際化されたボーダーレスな大学・大学院[*]。 

 


個別具体的な教育課題を抱える我々も、こうした大局的な展望を見すえ、批判的検討をも加えながら、インターネットを手段に大学教育を大いに充実させていきたいものと思う。

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